暑い日に、たこ焼きが食べたくなった。
ついでに、くずる小さい娘をベビーカーに乗せて出かけて、機嫌でもとってやろうと思った訳だ。
そのたこ焼き屋さんの場所は何となく知っていて、一度行きたいと前々から考えていたのだ。
車ならすぐと思っていたが、ベビーカーを押して歩くと、まあまあな距離。普段歩かないと、それすら分からないものなんだな。
途中、本屋が見えたので中で涼んでやろうと近づいてみたが、その本屋の一階はマッサージ屋になっていて、本屋は二階に移転していた。
古い建物なので、エレベーターがなく階段のみ。そのままではベビーカーは上がれないし、涼む為に抱えて上がるのでは、意味がない。
娘の機嫌も悪くないので、ベビーカーを押して歩き出した。
あっつい中、ようやくお店に着いた。
大きくないお店で、メニューはたこ焼きだけ、何年も前からある雰囲気だ。
お店にはメイクバッチリのお姉さんが二人。親子と思われる。ちなみに親の方は白髪だ。
若いお姉さんの方から、「1個?」と。
1皿10個と書いてあるので、一皿を一個、二個と、このお店は呼んでるだなと思い、
「3っつください」
思わず、3つ。しかも皿も個も使わなかった。
たこ焼きの単位は、1個、2個、でセットになると皿とかパックじゃないかと考えていると、
お姉さんが
「暑いね、ベビーカーの背中、冷やす物、入ってるの?」
暑い中、娘の事を心配してくれたようだ。
思いつきで出かけたので、何の用意もしてこなかった。イクメン失格だ。
「いやぁ、何も無いんですよ。」
娘の背中に敷いてあるタオルをパタパタさせて答えた。
「タオル貸して」
お姉さんが手を伸ばしてきた。
たこ焼きのお代金を払う前に、私はタオルを出すのだろうかと思ったが、これは娘を思っての事だと感じ、手渡した。
お姉さんがタオルを掴むと奥に消えていった。
白髪のお姉さんがたこ焼きを渡してきたのでお代金を渡す。良い匂いだ。
奥からお姉さんがやってきて
先程のタオルが何かをくるんでいる。
「タオルに保冷剤入れたから使って。返さなくていいから。」
「ありがとうございます。良いんですか?助かります。」
大きめの保冷剤だった。汗ばんだ娘の背中に冷気を感じるタオルを入れた。
次のお客さんがいるので、挨拶もほどほどでお店から離れた。
常連客でもないのに、こんな事してもらえて嬉しさと温かみを感じてしまった。
たこ焼き焼いてるお姉さん達の方が、余程暑いだろうなと思いながら、家に向かって歩く。
信号待ちでベビーカーをのぞいてみると、娘はグッスリ眠っていた。
ひで