もし、モルック大会でなければ。
試合の後、私が座っていた隣に彼は腰かけていた。
男は背が高く、前にみたときと同じかっこうをしていた。白いユニフォーム(ひょっとすると制服)の
背中にはアルファベットで、TARAと書いてあった。彼の目は大きく、関西弁で抑揚とうるおいに欠いていた。
「らんちゃんが、金の玉を出したときです。」
白いユニファームの男は、私が飲み物を飲み干したのを確かめてからそう言った。
「金のたま?」私は聞いた。
「知らなかった?」
「いや、知らなかった」
「ほんまですか?あんなに盛り上がっていたのに」と男は言った。
私は戸惑った。
「しかし、急にそう言われても、らんちゃんから金たまが出るというものを聞いた事がありません」
「金たまじゃないですよ、金のたま」
男は、まるでモルックのファーストブレイクを外した時の様な、あるいは
ショットガンショット、レーザービームレーザーを外した時の様な目で私をみた。
僕が金たまの話をしている時に、男は金のたまの事を考えている。
「そうかな。」私はつぶやいた。
「そうですよ。金のたまです」
まるで話があわなかった。
まわりはさわがしく、軍艦マーチが流れている店内で玉の事ばかり夢中になっている様に
私がまるで話を聞いていないような気分だった。
それはそれ、これはこれ、である。
冷たいようだけど、金は金、たまはたまである。
モルックはモルック、戸愚呂は戸愚呂、ガールズはガールズである。
金のたまについて、男がどう思おうと自由だ。
ただ、一つだけ言いたい。
金のたまが出るらんちゃんは存在しない。完璧なモルックが存在しないようにね。
「いや、ガラガラ抽選会の玉の話です」
「ガラガラ抽選会?」
モルック会場には、ドリンクバー的なスポット、ガールズフリードリンクバー(あるいはガールズバーのような)があり
名古屋、と呼ぶにはいささか疑問を感じるざるを得ない名物が当たる、ガールズガラガラくじの事だ。
「そうゆうものかね。」私は視線を飲み干したグラスに落とした。
らんちゃんはまっすぐ、男の座った席の横まで歩いてきた。
ゆっくり座り、静かな声で囁くようにこう言った。
「金の玉、出しましたよ。」
「やれやれ」
空いていたはずグラスは波打っている。反対の席で微笑むヤンさんがいた。
ひで
この作品はフィクションです。登場人物団体は架空の物です。